2019年9月にジャガー・ランドローバー・ジャパンのEVスペシャリストに就任した潮﨑。
現在、ジャガー・ランドローバー・ジャパンでは同社初のEV「I-PACE」の魅力をお客様に伝えるため、各地のディーラーにEVスペシャリストを置いている。そのマネージャー的立ち位置が潮﨑の役目である。
I-PACEの訴求だけではなく、今後のモビリティや電動化の時代に先駆け、こうしたスペシャリスト制度をいち早く導入したEVに対する本気度を、ここでは潮﨑の仕事やI-PACEに対する思いを通して語ってみよう。
お客様に寄り添う提案は
EVスペシャリストならでは
「私は日本の自動車メーカーで企画開発、特にEVに関する案件を20年近くやってきました。I-PACEにご試乗いただくとみなさんが体感される『速い』『静か』というのはまさにそのとおり。ただ、つくり手の立場からするとさらにはクルマのバランスや質感、クオリティのこだわり方が半端ではないことがよくわかります。『あぁ、自分もこういうクルマをつくりたかった、やられたなぁ』というのが正直な感想で、ここまでよくつくり込んだなと驚きました。運転の楽しさ、気持ち良さはEVとしての強みとジャガーとしての強みが最大限に活かされた、非常に楽しいクルマに仕上がっていると思います。乗り味が表面的なわかりやすさだけではないのと同様、スタイリングも街で見かけたとき咄嗟には気づかれない『静かなデザイン』。そして、上質だけど主張し過ぎない印象。だからモータージャーナリストの皆さまのような目の肥えた方々からも高い評価を得られるんだと思います。ワールドカーアワードをはじめ、世界中で60以上のアワードを獲得し、安全性もユーロNCAP評価で5つ星を獲得しています。そんなクルマってほかにありません。なので、もっとみなさんにI-PACEの良さを本当に知ってほしいんです」
I-PACEの素晴らしさをもっと広めたい。上質なものを知っていて、趣味性の高いお客さまの知的好奇心にお応えできるような、接客体制をつくらなければならないと語る潮﨑。その情熱はインタビューのスタートから伝わってくる。
「EVスペシャリストの仕事とは、簡単に申し上げるとEVに関するさまざまなコミュニケーションがお客様やスタッフの間でうまくいく方法を見つけて、行動するということでしょうか。入社して最初に着手したのが『現場(ディーラー)のEV知見の底上げ』と『現場とジャガー・ランドローバー・ジャパンとのコミュニケーションの強化』でした」
「例えば、ディーラー向けの研修で、講師にモータージャーナリストをお招きしてお話しいただいたことがあるんです。業界の動向、会社の考え方をおさらいしたほかに、最初の研修では「I-PACEの魅力」について議論し合いました。経験の少ない入社したばかりのスタッフはEVを売るのははじめての経験なので、『 I-PACEを一言で表すとしたら、どんなクルマですか? I-PACEの魅力はなんですか?』という質問に対して、『電気自動車です。環境に優しくて、税金が安いんです』と回答します。確かにそうなのですが、これですとほかの電気自動車も同じです。I-PACEならではの他EVと違う、明らかな差別化要素にフォーカスしなければならず、また、それがディーラーごとに違ってはいけません。この差別化要素をきちんと押さえ、お客さまに興味を持っていただけるよう、基礎知識とセールスポイントを身につけ、自信を持ってお勧めできるようにすることをさらに強化していきたいと思っています。」
Profile:潮﨑達也
1968年生まれ。武蔵工業大学(現・東京都市大学)大学院 工学部修士課程修了のち、国内自動車メーカーに入社。車両開発本部でシート、シートベルト、安全性能開発などの内部設計に主に携わる。その後商品企画本部で戦略立案、先行商品企画、コンセプトカー企画・開発およびプロモーション活動を行う。企画・開発で携わったのは、EVのコンセプトカーを含めると50台以上に及ぶ。2019年9月からは、ジャガー・ランドローバー・ジャパン株式会社にEVスペシャリストとして在籍、日本での「I-PACE」の普及に邁進している。
「ジャガー=美しくて速いクルマ」この
イメージを昇華させたI-PACE
EVスペシャリストの潮﨑だが、お話を伺っていくとEVはもちろん、走りにフォーカスしたクルマが本当に好きな様子が伝わってくる。
「EVで勘違いされやすいのは環境やランニングコストといった面が一番の魅力だと思われてしまうことなんですが、EVの何より魅力的な部分というのは動性能の高さなんです。I-PACEはそれが際立っている。私がジャガー・ランドローバーに入社する際に確認した点は、ちゃんとI-PACEに(時間的に、物理的に)乗れますか? というところでした。パン屋がパンを食べずに『このパン美味しいんです』と言ったって何の説得力もありません。それと同じだと思うんです。私は自分自身でちゃんと体験した上で、自分の言葉で伝えたいと考えています。そこはすぐに叶えてもらえまして、入社して1ヶ月で2,000キロ近く走らせてもらえました(笑) 平日と休日も走るようになったので、3ヶ月で3,000キロ近く走ってますね」
「元々クルマやバイクが好きなものですから、箱根のワインディングなどもしっかり走りました。自分ではスポーツタイプの車やバイクが好きで、 いろいろ乗ってきました。EVは2001年から関わってコンセプトカーの企画も何台もつくっていますから、どれだけ魅力的なものかもよく理解していますし好きなんですが、友人からは『お前がEVとか嘘だろ』なんて笑われますね」
前職で、EVのコンセプトカーを企画・開発していたという潮﨑。その部署は比較的所帯が小さく、その情報を扱える人間が少ないこともあり、企画だけでは終わらず広報やマーケティング活動もしていたという。つくるだけではなく、あるときには話し伝えながら経験を積んだこと、プライベートでもクルマやバイクを楽しんでいたことが、現在、I-PACEの良さを伝えることに役立っていると語る。
ガソリン車とは使い方が違うEV
走る分だけ充電されていれば十分
「EVのイメージとして『充電が面倒くさい』『航続距離が不安』といったご質問やご相談がよくあると思うんですね。これについてはまだ皆さんが実際にEVに乗っておらず、どのようなものかわからないことから来る不安ですよね。わからないことは怖い、怖いから触れないという循環になってしまうのは、本当にもったいない。そのため、まずは試乗していただくことをお勧めします」
「私自身は前職を含めて日本で発売されているEVにすべて乗っていますので、そもそも充電の不安を感じたことがありません。ガソリン車は満タンにして空になるまで乗る、また満タンにする。その感覚のままだと『さぁEVが電池切れになったときに近くに充電設備がなかったらどうするんだ?』となるんです。『EVはそういう使い方ではないんですよ』というのが分かっていれば怖くないんです。必ずしも100%充電でなくてよいし、これから走る分だけ入っていればいい。たとえば家路についたときに残りが5%でも家に充電器があれば問題ありません。ガソリン車とはそもそも違うんです」
これまでのI-PACEオーナーの皆様も総じて語っていたが、空いている時間に充電スポットで休憩がてら充電し、溜まったメールを返す間に充電スポットへ立ち寄るなど、クルマに対する発想の転換は必要だが、慣れてしまえばEVライフはなんら不自由がないといえる。
「約10年前に登場した黎明期の国産EVでは航続距離は100キロそこそこ。最近他社が発表してきた新型EVのコンセプトカーでも、航続距離200キロ程度です。I-PACEの航続距離はWLTCモードで438kmです。それを考えると近距離走行はもちろん、年に一度、実家へ帰るためなど、たまに必要な長距離走行も十分対応できます。使い方のコツさえつかめれば、EVだからといって、不安になるようなことは何もないのです。」
クルマをバラバラにして分かった
I-PACEドライビングへのこだわり
EVの企画・開発に携わっていた時、ドイツ系のプレミアムカーやテスラなどに乗るだけではなくバラバラに分解するなど、いろいろな調査をしてきたのだそうだ。
「I-PACEは乗ったときのハンドリングやクルマの挙動が、本当によくできていて、運転していて楽しく気持ちがいい。スポーツカーにこだわりのあるメーカーって、それぞれ駆動方式や出力は全然違うんですが、どこかに楽しいとか気持ちいいっていう要素がありますよね。クルマは速さだけじゃないんです。I-PACEはそこがうまいし、皆さんにもなんとかして伝えたいと思っています」
潮﨑によると、これまで生産されてきたEVは「乗用車」でI-PACEは「スポーツカー」であるという明確な違いを感じるという。各社でEVが続々と発表されているが、EV専用のプラットフォームを持つI-PACEはEVの特性を活かした独特のデザインやジャガー独自のドライビングプレジャーが、今後も強みとして活き続けると力説している。
「直線が速く、車体が大きいため室内が広いという魅力を持つ他社EV車は、部品レベルまでバラしてみると仕上がりが荒いなという印象でした。開発チームがクルマをバラバラにする作業というのは、単なる興味本位ではなく、表からではわからない裏面の処理などから、どういった考え方でクルマが作られているかを知るためなんです。比べてI-PACEは、やはり歴史のある会社が本気でつくっているんだなと実感しますね」
インテリアでもシートのラインやステッチが一定幅でキレイにできているところもポイントだという。前職でシートの開発にもたずさわっていたと語る潮﨑曰く、ステッチの幅ひとつで価格が変わるためデザイナーは採用したいものの設計側はやりたくないなどかけひきが存在するのだそうだ。
「正直、I-PACEは多少ひとを選ぶクルマかもしれません。室内が広く使い勝手もいいのでどんな用途にも耐えられる。水深50センチの場所でも走行できるくらいSUVとしての機能も優れていますし、スポーツカーとしての乗り味も味わえる。クルマにある程度のパフォーマンスを求める方であっても、期待以上のパフォーマンスは約束できる。ただ、どうしてもEVに不安があるとかアレルギーのある方には無理して勧められません。ただ、このクルマの良さを知ってもらえたら嬉しいですね」
EVの開発を長年手がけ、EVスペシャリストとして活動を続ける潮﨑。自身で経験したI-PACEの素晴らしさを、こだわりにあるお客様に伝えていく。モビリティ変革の時代である今、そして今後。イノベーターとしてさらに活躍の幅を広げていくことであろう。