ハイブリッド、EV(電気自動車)といったエコ化が進む自動車業界。その状況で、「大人のクルマ選びとしてエコカーは外せませんが、それだけじゃ満足出来ないのもある意味オ・ト・ナですよね」と語る九島辰也。そこで目をつけたのが、ジャガーI-PACE! さっそくI-PACEのステアリングを握り大好きなゴルフへ。はたして九島が常に語っている“ゴルファーズビークル”の定義にI-PACEはマッチしているのだろうか? 走りのジャガーが繰り出すEV。クルマ好きの諸兄、ご興味ありませんか!?
環境問題に重きを置くヨーロッパにはエコ先進国や都市は多い。近未来二酸化炭素排出量ゼロを掲げ、公約や自主規制にとどまらず法令化を進める国もある。よって自動車メーカーはEVのラインナップを急ピッチで進めている。既存のコンパクトカーをベースに、新しいプラットフォームの開発に、と手を緩めない。
では、我々ゴルフを愛するカー・ガイはどんなクルマ選びをすれば良いのか。ゴルファーズビークルには2つの要素が必要だとかねてから考えている。まずはスポーティな走り。これは眠い目をこすりゴルフ場に向かうのに重要なポイントで、頭と身体を目覚めさせるのに必須項目となる。具体的には、気持ちのいい加速とハンドリング。高速道路での加速で頭を、ゴルフ場近くのワインディングで身体を、覚醒させる。
そしてもう一つは高級サルーンのような快適な乗り心地。ゴルフ場からの帰路、クラシック音楽を聴きながら「18番の2打目の池越えはなかなかいいショットだったぁ」なんてプレイを回顧するにはゆったりとくつろげるキャビンが必要。一日を思い返すのもゴルフの楽しみである。 そんな視点でEVを見回すと、一つのモデルが浮かび上がる。ジャガーI-PACEだ。ブランド誕生から走りにこだわるジャガーのEVに興味を持たないカー・ガイはいない。
Profile:九島辰也
モータージャーナリスト兼コラムニスト/日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員/2019-2020日本カーオブザイヤー選考委員/日本ボートオブザイヤー選考委員/(社)日本葉巻協会会員 外資系広告会社から転身、自動車雑誌業界へ。「Car EX(世界文化社 刊)」副編集長、「アメリカンSUV/ヨーロピアンSUV&WAGON(エイ出版社 刊)」編集長などを経験しフリーランスへ。 その後メンズ誌「LEON(主婦と生活社 刊)」副編集長、フリーペーパー「go! gol.(ゴーゴル;パーゴルフ刊)」編集長を経験。 現在はアリタリア航空機内誌日本語版「PASSIONE(パッショーネ)」編集長、メンズ誌MADURO(マデュロ)発行人・編集長をつとめる。 また、傍らモータージャーナリスト活動を中心に、ファッション、旅、ゴルフ、葉巻、ボートといった分野のコラムなどを執筆。クリエイティブプロデューサーとしても様々な商品にも関わっている。
午前5時30分。ガレージのI-PACEにゴルフバッグを積む。充電は100%。昨晩つないだ200Vのアダプターからケーブルを抜けばそれで完了。前日に慌ててガソリンスタンドに行くことはない。これ意外と大事。今日のラウンドは河口湖の鳴沢ゴルフ倶楽部。自宅から往復で約250キロほどだが、途中で充電する必要もない。
WLTCモードの航続距離は438キロと十分。行きはダイナミックモードで少々スポーティな走りを楽しむが、帰りはエコモードでまったり走ればバランスはとれる。ルートは都心から中央高速を西へ。日の出と共に気持ちのよい高速クルーズが始まる。
中央高速の大月ジャンクションから河口湖線に入る。しばらく走り、大型のジェットコースターがいくつか見えてきたらインターはもうすぐだ。鳴沢ゴルフ倶楽部は林道に囲まれている。朝の日差しを浴びる林道は気持ちがいい。 大面積のパノラミックルーフが気分を盛り上げる。頭の上は鮮やかな緑でいっぱい。紫外線をカットするので遠慮なく陽を浴びられるのもいい。
クラブハウスに到着。キャディさんに挨拶をし、リアのハッチを開けバッグを下ろす。クルマはEV用充電スペースに停めさせてもらってもいいし、そのまま駐車スペースに置いても構わない。充電のゲージはまだ60%以上残っている。
鳴沢ゴルフ倶楽部でのラウンドはゴルフと同時に景色を楽しめるのが好きだ。山梨県屈指のコースだけにあらゆるシーンが美しい。富士山を借景にここまで気持ちよくさせてくれるコースは少ないだろう。8番のショートは池に映る逆さ富士で知られる。個人的には13番のミドルが印象的だ。
ここはプレイヤー目線で見て戦略的なコースであることは間違いない。林に囲まれたレイアウトもそうだし、絶妙な位置にあるバンカーや2段グリーンは、正確なアイアンショットを要求する。まさに、腕もそうだが、頭の使いどころだ。グリーンのどこに落とすかによってパットの数が決まる。何度でもチャレンジしたくなるコースである。
I-PACEの特徴はEVであること、走りを知り尽くしたジャガーであること、それとジャガーの伝統でもある美しいデザインで仕上げられていること、だと思う。創業者ウィリアム・ライオンズは実業家でありカーデザイナーであった。1960年代“サー”の称号を得ているが、それは工業デザイナーとして高く評価されたものであったことはあまり知られていない。
もちろん、そういった伝統は今も受け継がれている。なので、I-PACEは全体のフォルムが美しいばかりかディテールまでしっかりデザインされている。LEDライトを駆使したヘッドライトやテールライトは個性的だ。ターンシグナルの光り方も新鮮でいい。
足元もそう。グレードで18インチ、20インチ、22インチのホイールが用意されるが、どれもジャガーらしい攻めたデザイン。特に22インチのそれは見栄えがいいばかりでなく、不思議と乗り心地と快適さが担保される。この辺のセッティングは秀逸。オプションのエアサスペンションを装着すればもはや高級サルーン顔負けの乗り味を提供してくれる。
利便性の面ではスマートフォンを使った操作も見逃せない。リモートアプリをダウンロードすれば遠隔操作ができる。例えばそれはエアコンのオンオフ。夏場は涼しく、冬場は暖かいキャビンを乗る前から準備できる。ゴルフ場からの帰りには相当便利だろう。この他にもスマホを使って充電状況を把握したり、充電のスタートやストップができたりもする。そうそう鍵のロックやアンロックも。これなら「鍵閉めたっけ?」という事態にも平然としていられるはずだ。
I-PACEのインテリアは奇をてらっていない。EVであることを変にアピールせず、これまでの自動車のセオリーに則ってデザインされる。というかそこはジャガーの伝統が生きている。視野を確保する低めのダッシュボードやスポーティな2本スポークステアリング、スポーツシートなどがそれだ。
そしてそれに加わるのが最新のインターフェイス。“タッチ・プロ・デュオ”と呼ばれる2段式のモニターがダッシュボードセンターに設置される。上のモニターでナビゲーションを映しながら、下のモニターでマルチメディアやエアコンなどの設定ができる。当然、操作は名前の通りタッチ式で、直感的に扱える仕組みだ。
ところで、我々ゴルファーが気になるリアカーゴスペースだが、今回2つのゴルフバッグをクロスに積んだがなんら問題はなかった。ドライバーを抜くことなく、スッと積みこめる。リアシートが3分割で倒せるので、その一部を倒して、3名がけで3バッグまで積めそうだ。
ジャガーI-PACEは革新的なクルマだと思う。英国の老舗ブランドがこれほど早く、しかも魅力的なEVを市販するとは驚きである。スタイリングもジャガーらしさを表現しながらトレンドであるクロスオーバー的要素を取り入れている。
そして走れば早く、さらに高級感も同居する。この辺はまさにゴルファーズビークルにうってつけのプロファイリング。それに乗員の安全を確保するためのドライブアシストも用意される。ドライバーコンディションモニターは、ドライバーの眠気や疲れを感知するシステムだ。
さて、せっかく河口湖に来たのだからゴルフ場を背にしたら、イタリアンのリチェッタで腹ごなし。河口湖の澄んだ空気と美味しいピッツァという組み合わせも悪くない。窓側の席かテラスに座ればクルマも眺められる。実に気持ちのいいひとときだ。
それにしてもゴルフとクルマの親和性は高い。14本のクラブをさしたゴルフバッグを運ぶのにクルマは必須。それに上質な走りで快適な走りができればスコアもまとまるってもんだ。
さらに言えば、名門と呼ばれるゴルフ場には名車を輩出してきたカーブランドがよく似合う。それは仕立てのいいジャケットを着て行くのと同じこと。ジャガーI-PACEはそんな一台。スマートな大人の選択肢であることは間違いない。