全世界で発売されているクルマを世界中の著名ジャーナリストが評価し、その年のアワードを決定するワールド・カー・アワード。I-PACEは2019年のワールド・カー・アワードで、最高の栄誉となるワールド・カー・オブ・ザ・イヤー賞、そしてワールド・カー・デザイン賞、ワールド・グリーン・カー賞の3部門を同時に受賞するという史上初の快挙をなしとげた。ここでは実際にワールド・カー・アワードの選考委員で、I-PACEに高い評価をつけたモータージャーナリストの方々にご登場いただき、I-PACEの魅力と評価ポイントを語っていただいた。
最後はピーター・ライオン氏。
ワールド・カー・アワード共同会長、選考委員
日本カー・オブ・ザ・イヤー賞選考委員
国際エンジン・オブ・ザ・イヤー賞選考委員
トヨタ夢のクルマ・アート・コンテスト審査員
日本外国特派員協会 会員
1960年オーストラリアで生まれる。’81年に西オーストラリア日本語弁論大会に優勝。のち’82年、西オーストラリア大学政治学部日本研究科を卒業、’83年には奨学生として慶應義塾大学に留学。’88年からは東京を拠点にするモータージャーナリストになり、現在に至る。『Forbes』に英語で書き、『Forbes JAPAN』には日本語で書く唯一のコラムニスト。その他、米『Car & Driver』、英『Auto Express』、伊『Quattroruote』等に寄稿し、日本の自動車専門誌・一般誌に幅広く執筆中。2014年に「サンキューハザードは世界の’愛'言葉」上梓。2010年ニュルブルグリンク24時間レースでクラス4位入賞を果たしてもいる。2015-18年 NHK国際放送「Samurai Wheels」に毎週出演。
全世界のクルマから最優秀車を決める「ワールド・カー・アワード」は、15年前に各国の選考委員を集めてスタートし、今回は25カ国85名もの有力ジャーナリストによって審査されました。
ワールド・カー・アワードの選考委員たちはオンラインでワールド・カー・オブ・ザ・イヤー、ワールド・カー・デザイン・オブ・ザ・イヤーなど6つのカテゴリーに投票するのですが、投票の公正な管理はKPMGという一流の会計事務所にお願いしています。NYモーターショーの初日、同会場で行う授賞式ではプレゼンターが封筒を開けるまで主催者である私も、どのクルマが受賞するかわかりません。例えるなら自動車業界のアカデミー賞のようなものなのです。そんな中、I-PACEは今回ワールドカー、デザインカー、グリーンカーと三部門を受賞するというハットトリックを決めました。こうした快挙は今までありませんでしたし、もしかすると今後2度とないかもしれません。まさにI-PACEはこの10年間の中で最も意味のあるクルマといってもいいのではないでしょうか。
じつはNYでI-PACEが3つ目の賞を受賞したときに、観客から「ウワーっ」と歓声が起こったんです。発表順としては最初にデザイン賞の発表があり、I-PACEをデザインしたイアン・カラムがステージでデザインについて説明しました。次にグリーン賞の発表となり、これもI-PACEが受賞したため、同じく彼が環境性能のことについてスピーチしたのです。最後、本賞でもI-PACEが受賞したときには、さすがのイアン・カラムも圧倒されていました。話したいことはそれまでの2回でほとんど伝えてしまったということもあり、スピーチというより心からの驚きと喜びを表現していましたね。自動車メーカーが作った最初のEVのSUVではありましたが、2位との得点差は15点以上もありましたので、観客のみなさんも当然の結果として納得しているようでした。あとで聞いたのですがイアン・カラムは「デザイン賞のトロフィーがとれればいいな」くらいに思っていたということです。
これからメルセデス・ベンツやアウディなど大手メーカーから次々と電動SUVが出てきますが、I-PACEはまさに電動SUV時代の幕開け的クルマであり、この先進性をほとんどの選考委員が感じたのだと思います。だから3つものアワードが獲れたのでしょう。今までデザインと本賞をダブルで獲得したクルマはありましたが、3つの賞を獲得するとなると本当に難しいことです。ただI-PACEはほかにもノルウェーやヨーロッパのカー・オブ・ザ・イヤーなどなど62もの賞を獲得していますから、クルマの歴史上に、間違いなくひとつの波紋を残したといえるでしょう。
さて、私が最初にI-PACEに乗ったのは去年のジュネーブモーターショーのときで、少し運転しただけで「すごいなこれは」と感じました。デザインがいい、パッケージがいい、走りがいい、安全性が高い、航続距離が長い、ドライバーが楽しいし、自動車メーカーへの信頼性と安心感もある。プライスは高いけど、がんばれば手が届くクルマだと思います。
最近では多くの消費者がSUVを欲しがり需要が伸びています。アメリカで普通のセダンに乗っていると、まわりがSUVやピックアップトラックばかりなので、交差点で停車すると周囲にクルマの壁ができてものすごいプレッシャーなんですよね。SUVはアイポイントが高く運転しやすいこともあり、子供をよく乗せるお母さんたちも好きですし、コクーンに入っているような安心感があるんです。クルマ業界がSUVとEVに大きくシフトしている中で、I-PACEはその両方を兼ね備えた、とても意味のあるクルマだと思います。電動SUVとしてはテスラ・モデルXをL.A.ではかなり見かけますが、日本で乗るには車体が大きく値段も高めです。メーカーとしても新興メーカーなので、購入する前にしばらく様子を見てみようという方が多かったのではないでしょうか? ただ、そうした不安要素がI-PACEの一台で解決されたのです。
WCOTY選考委員の皆さんも今まではカッコよく、走りもよく、航続距離が長くて、値段がそこそこというクルマがなかったので、EVを高く評価しない方が多かったのですが、I-PACEの試乗で意見がコロッと変わったという方も多いんです。今回L.A.で開催したワールド・カー・アワードの合同試乗会は、過去最大の48名による選考委員で32台の候補車を5日間かけて評価しました。そこには2台のI-PACEを用意したのですが、試乗がスペシャルな経験になるため、選考委員は皆さんI-PACEに乗りたがっていました。それまでのEVは峠道をガンガン走るとバッテリーをかなり食ってしまっていたのですがI-PACEは航続距離が400kmくらいあるので、心配なくテストドライブができたというのが印象に残っています。
また、思い出してみるとこの試乗会のときすでに、選考委員たちの中で「I-PACEは試乗車の中で一番カッコいいかもしれない」っていう会話がされていました。最近クルマのデザインはどれも似てきており、SUVもだいたい形が決まってしまっています。しかしジャガーは独自のデザインを突き進んでいるので、毎年デザイン賞のトップ3に選ばれるケースが多いのです。今までのワールド・カー・アワードの受賞車を見ると、ヴェラールやイヴォークなどジャガー・ランド・ローバーのクルマが獲得していることからも、それはおわかりいただけるのではないかと思います。
WCOTYの審査は、環境、パフォーマンスなど8カテゴリーを各10点満点で、自分の評価を採点していくのですが、私は中でもエモーショナルというカテゴリーがとても重要だと思っています。エモーショナルとは「乗ってどれくらい楽しいか!」です。I-PACEは走りも良くて速い、ブレーキも安定性もいい、峠でもステアリングにあまり遊びがないため、ドライバーにくっついてくるような反応があります。バッテリーやモーターも低い位置にあるので、コーナーに入ったときもボディロールをあまりせず、安定性が高い。またジャガーのエッセンスがサスペンションとシャシーに息づいているため、本当に乗っていてエモーショナルで楽しいクルマに仕上がっています。
さらに、I-PACEのデザインに関してですが、ご存知のように今までのクルマはエンジンがあってのボディなので、ボンネットが長めにデザインされていますが、EVになるとシルエットをゼロから変えることができます。オーバーハングを短くデザインできるため、シャープでカッコよくできる。I-PACEはそうした電動SUVにしかできないデザインを採用しましたから、今後のデザイン・アワードの基準が変わるかもしれません。インテリアデザインもヴェラールのような、シャープで綺麗なインパネやレザーの使い方でよいと思います。そもそも、ジャガーのデザインって女性受けが大変良いんですよね。私も1998年式のジャガー・XK8に長らく乗っていましたが、これは私だけでなく妻もデザインを気に入ったということが購入のポイントとなりましたし。
今まで30年間アメリカ、イギリス、ドイツ、イタリア、フランスなど、様々な国でいろいろな方にインタビューしてきましたが、あまりクルマに興味のない女性でも「ジャガーに乗りたい」という方が世界中、非常に多かったように思います。それだけ昔から格好のよいクルマを出し続けているということで、デザイナーのイアン・カラムには相当のプレッシャーがかかっていたのではないでしょうか。I-PACEは彼がジャガーでデザインした最後のクルマとなりましたので、そこも重要なポイントだと思いますし、いろいろな意味で未来を大きく変えた一台といえるでしょう。