全世界で発売されているクルマを世界中の著名ジャーナリストが評価し、その年のアワードを決定するワールド・カー・アワード。I-PACEは2019年のワールド・カー・アワードで、最高の栄誉となるワールド・カー・オブ・ザ・イヤー賞、そしてワールド・カー・デザイン賞、ワールド・グリーン・カー賞の3部門を同時に受賞するという史上初の快挙をなしとげた。ここでは実際にワールド・カー・アワードの選考委員で、I-PACEに高い評価をつけたモータージャーナリストの方々にご登場いただき、I-PACEの魅力と評価ポイントを語っていただいた。
第三弾は佐藤久実氏。
日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
ワールド・カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
東海大学工学部動力機械工学科非常勤講師
芝浦工業大学特別講師
Profile:佐藤久実
モータージャーナリスト、レーシングドライバー。大学在学中にレースデビューし、耐久レースをメインに活動する。ニュルブルクリンク24時間レース、スパ・フランコルシャン24時間レースほか、国内外の数々のレースで入賞を果たす。レースで培った技術を活かして、自動車メーカー主催のドライビングレッスンなどでドライビング・インストラクターを務めるほか、自動車専門誌やWEBでの執筆、テレビ出演など幅広い活動を続けている。
WCOTYには2018年から審査員として関わらせていただいています。I-PACEにはじめて乗ったのはLAのパサデナで行われた試乗会のときですね。最初の印象はというと、今までにないデザインがとにかく魅力的だな、と。ジャガーというとロングノーズ、ショートデッキが伝統でしたから。「エンジンがないとクルマってこんなデザインになるんだ!」っていう驚きがありました。I-PACEはロング・ホイールベースでショート・オーバーハングという、従来のジャガーの美しいバランスとは明らかに違いますが、クルマにそれほど興味のない方でも素直にカッコよく思えるでしょうし、ジャガーが掲げている「ビューティフル・ファスト・カー(美しく、速い車)」というスローガンをまさに継承しているなと感じました。
ジャガーらしさと革新性のバランスが絶妙ですよね。先進的な技術をパッケージ化しているのに伝統も引き継いでいて、「今までの固定概念にこだわる必要がないんだ」という強いメッセージを感じました。かつてI-PACEをデザインされたデザイナーのイアン・カラムさんにインタビューさせていただいたときに「インダストリアルデザインは、まず中身があって、デザインをどうするかは、おのずと決まっていく」という話を伺いました。「エンジンがありミッションがあって、クルマのデザインが形作られるのだ」と。彼はI-PACEでまさに、EVのパワートレインから考えたインダストリアルデザインを表現したのでしょう。ジャガーの現行SUVにも通じたデザインで、ジャガーらしさも残す。しかもプレミアムブランドとして、初めてEVを専用設計で世に送り出すというところが「やるなジャガー!」と思いました。
走りはじめると、タッチプロ・デュオというインテリアのタッチパネルもとても先進性があり、操作が直感的でとても使いやすいなと感じました。とにかくスッキリしたデザインで、いいですよね。試乗会ではホテルからスタートしてワインディングに抜けたんですが、これまで乗った試乗車の中でもI-PACEはとにかく気持ちよく走れました。2モーターで加速が気持ちよく、まさにハンドリングカーという印象。EVはエンジンを積んでいるクルマよりも低重心ですし、フロントオーバーハングに重いものを積んでいない分、前後の車重バランスで理想的な50対50を作りやすいんです。形はいわゆるSUVですが走り出すとスポーツカーという、意外性がいっぱい詰まったクルマだと思います。
「ズドン」という加速とシームレスな静粛性はEVならではですが、アクティブ・サウンド・デザインをオンにして踏んでいくと、かつての12気筒エンジンを彷彿させる印象を受けました。じつはEV化によって静かになりエンジン音がしないと、風切り音やロードノイズなどほかの雑音が気になるんですよね。特にスポーツカーはエンジン音が気持ちよければ、ある程度ほかの雑音があっても私の場合は気にならないのですが、一般的にEVの場合はどうしても雑音が気になってしまうんです。その点I-PACEは遮音性が高くて静かな走りもできるし、サウンドエフェクトであえて音を出すということもできるので楽しいです。高回転になるとエンジン音さながらの上昇感を感じられるだけでなく、なめらかさも力強さもサウンドも、ジャガーの12気筒のようである意味懐かしいというか、とても作り方が上手ですよね。高速のランプでギューッと曲がると「うわっ! ちゃんとジャガーしてるな」って思えるんです。Eタイプの時代からすればエンジンもなくガソリンも使わず、クルマ作りとしてはまるで違うのでしょうが、ちゃんとジャガーがそこにいるんです。
電気自動車はクルマ屋さんじゃなくても作れるとよくいわれていますが、I-PACEはまさに「クルマ屋さんが作ると電気自動車ってこうなるんだ」と思いました。具体的には、今までの「伝統」「こだわり」「ブランドらしさ」っていうのがそこにはあって、ただ単に「速いでしょ!」じゃないんですよね。また、電気自動車になるとコモディティ化されて白物家電みたいになるといわれてましたけど、I-PACEに乗って「全然違うじゃん」って安心したんですよね。クルマ好きほど「自分で運転できないの?」とか「エンジンなくなっちゃうの?」など、電動化や自動化にネガティブな方が多いんですが、I-PACEが登場したことでEVに明るい未来があるんだって思えましたよ。
じつは私、今はボルボのXC60に乗っているんですが、その前はレンジローバー・イヴォークで、その前はジャガー・XKのコンバーチブルに乗っていました。やっぱりクルマはデザインなんですよ。イヴォークはモーターショーで一目惚れして購入したんですが、それまでは走ることが好きなのでクーペかオープンに乗ってきました。イヴォークはボディラインがクーペなのにレースギアや大きなスーツケースなどといった荷物も乗せられますし、距離も楽に移動できるため年間走行距離がとても伸びました。クルマによって、まさにライフスタイルが変わったんです。I-PACEは電動化の恩恵でラゲッジルームも見た目以上に大容量ですから、さらに便利だと思います。また、最近は都内でもSUVに乗っている女性をよく見かけますが、車格が大きくても目線が高いので、取り回しが楽なんですよね。おしゃれでカッコいいのに実用性が高く、航続距離も長い。平日は近所の普段使い用で、週末はどこかに足を伸ばすという使い方にもオススメできますよね。
さらにいうと、日本での試乗で気に入ったのは、オプションで選択できるパノラミックルーフでしょうか。これはリアシートに乗る方にとっては視界が広がって、さらにドライブが楽しくなると思います。また、シートの下に傘を入れるところがあるというのも女性には嬉しいですよね。これはちょっとしたことで、傘一本かと思うかもしれませんが、傘をたたんでクルマに乗ると、安定して置くところがなくて、どうしても服や足元が濡れるんですよね。クルマの中に常備しておきたいアイテムですが、さりげなく置いておけるのはいいですよね。スーパーカーのようなクルマがどれだけ女性にささるかっていうと、ほとんどささらないと思うんです。I-PACEはそうしたクルマのようにとんがっていないけど、斬新で個性的。しかも実用性が高いのに生活感が見えないのがちょうどいいんですよね。
私が乗っていたからというわけではないのですが、「ジャガーがいい!」という感じで積極的に選んで乗っている方ばっかりなんです。ジャガーに乗っていることでモテるという男性もいると思いますが、たぶんそこには女性から見るとこだわりが感じられるからではないでしょうか? I-PACEの場合、そこにEVという新しい価値観も加わりますから、ドライバーのこだわりがさらに素敵に見えるかもしれませんね。
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