1990年代、アルベールビル、リレハンメルオリンピックやノルディックスキー世界選手権で度重なる金メダルを日本に持ち帰ってきた荻原健司さん。通算19勝とまさに「KING OF SKI」として成績を残してきた荻原さんだが、実は今でも競技者として国体に出場して最年長で入賞を果たし、現在は長野市内に住みジュニア選手の育成に力を入れている。今回は、普段クルマが欠かせないという荻原さんに、I-PACEの試乗をお願いすることにした。撮影場所はかつて長野オリンピックの会場にもなった長野運動公園。秋の青空と紅葉の中、待ち合わせ場所に笑顔で登場した荻原さんは、現役当時と変わらない印象であった。
「うちは6人の大家族+犬1匹、しかもみんなキャンプ好きなんです。以前はトヨタのヴェルファイアに乗っていたんですが、外出にはさらに大きいクルマが必要となってここ3年くらいはハイエースに乗っています。クルマは、家族が増えれば増えるほど、どんどん大きくなっていきますよね。今は一番上の娘が中学1年ということもあり、家族で出掛けられるうちにいろいろな場所へ行っておきたいなと思っています。サーフィンもやるので日本海側上越のほうにもよく行きますね。1時間ちょっとで着くんですよ」
クルマのカーゴスペースには雪道でも走れるというファットタイヤのMTBとスケートボード、サーフボードのラックも装着されている。聞くところによると、現在のクルマはこのハイエースと、奥様が普段乗るSUVの2台体制。雪深い長野ということもあり、免許を取ってからというもの、基本的にクルマは四駆というのが荻原流だ。
「スキー選手のクルマはだいたい四駆ですね。冬は豪雪で立ち往生とかもよくあるんです。なので、命にかかわる問題としてもクルマ選びというのは結構重要で、たとえば雪に埋もれたときにFFやFR車に乗っているか四駆に乗っているか。はたまた、車高が調節できるクルマに乗っているかで、そこを脱出できるかどうかが決まるんですよ。ですから、私のクルマ選びは四駆であることがマストですね」
20代のときはランドクルーザーなどの4WD車に乗っていたという荻原さん。購入したての頃は、雪道でデフロックがわからず、道の真ん中で立ち往生したという苦い経験もあったそうだが、クルマ選びはまさにライフスタイルの延長にあるといった印象である。
Profile:荻原 健司
1969年生まれ、群馬県草津町出身。スキーノルディック複合の選手として、長年世界のトップアスリートとして活躍。1992年のアルベールビルオリンピックから通算4度の冬季オリンピックに出場する。アルベールビル、1994年リレハンメルでは団体戦連覇に貢献。ワールドカップでは個人総合3連覇などを含む通算19勝という前人未到の成績を収め、「KING OF SKI」と賞賛される。2002年に競技から引退。2004年7月参院選で初当選。スポーツ振興、教育問題や環境問題を中心に取り組んだ。のち、北野建設スキー部の指導者としてオリンピックメダリストを輩出。現在はジュニア選手育成に尽力する。また、競技者として国体に最年長出場し成年Bで入賞。その他、各地での講演やイベントに出演、精力的な活動を続けている。
豪雪地帯、もしものスタックで
EVのヒーターが役に立つ?
「実はガソリン車って、万が一雪に埋もれたときには一酸化炭素がマフラーから逆流して車内に充満してしまうんです。それで亡くなってしまう事故も起きていますから、その点を考えるとEVは排ガスが出ずによいと思うんですよね。また、埋もれるまでいかなくても、冬の豪雪時は車線が見えなくなりますし、そもそもトラックが巻き上げた雪で前のクルマが白く覆われて見えないこともあるんです。雪深い中での運転って本当に危険なんですね。長野ではよくあることなんですが、私も雪が積もった側溝に突っ込んだことがあるんですよ」
車内でヒーターをかけた場合、どのくらい持つのかはバッテリーの残量次第ということもあろうが、雪道中のスタックや災害時にEVの暖房が役に立つ例は、実際に報告されている。I-PACEに搭載される車載センサーは前方の車間も捉えているため、雪道の見えづらい視界もアシストしてくれるはずだ。
「I-PACE、デザインがとてもカッコイイですね。子供が大きくなって独立したら、こうしたSUVに乗るのも理想ではないでしょうか。クルマの下はどうなってるんですか? スゴイ! 本当にシャシーがツルツルですね。下がバッテリーになっているとは聞いていましたが、ここまでなにもないとは! 乗るのが楽しみです」
I-PACEの下を実際に覗き込んで驚く荻原さん。到来する冬が近いこともあり、雪とクルマの話は尽きないが、I-PACEは下にバッテリーが搭載されているために低重心、しかもAWDということでその走りはヨーロッパの雪深い地域でも定評がある。それではいよいよ荻原さんにI-PACEを試乗していただこう。
「走りがキレイ」「折り目正しい」
スーッと走るI-PACEの魅力
「I-PACE、私にとっては初EVですね。当たり前かもしれませんがエンジン音がしないので、驚きました。グッと踏むと速い! 滑空感というか、音もせずに踏んだ分がスーッと出るのがすごいですね。走りの感じは、まさに“高級車”という感じがして、少し走っただけでもハンドリングのダイレクトさと正確さが伝わります。『走りがキレイ』というか『スーッと折り目正しい感じ』が、私のフィーリングにとても合う気がします。まるで自転車のハンドルを握っているかのような、なめらかで疲れない感覚。どこまでも走っていけそうです」
MTBやロードバイクに昔から練習の一環で乗っていたという荻原さん。音もなく道路を進むフィーリングはまさにスキー、もしくは自転車の下り道を滑空している状態に近いかもしれない。
「速いスピードで景色が移り変わっていくので、毎日練習するのにも飽きなくていいんですが、そもそも自転車が好きなんです。スキーでカーブを曲がるときっていうのは、自転車と共通したところもあるので、雪のない日の練習にもなるんです。I-PACEもカーブでググッと踏ん張っているというか、足腰の強さが感じられますね。あと回生ブレーキっていうんですか? 下り坂や減速の間に充電できるっていうのは不思議な感覚ですね」
長野市内の一般道をテストドライブで体験していく荻原さん。知らないうちにスピードが出てしまう、というのはI-PACEに乗るとみなさんが感じるポイントだが、ほかにも擬似エンジン音、クリープや回生ブレーキ、車高の調整もひととおり体験。「クルマ好きのひとはいろいろ調整できるのでいいでしょうね。あとはさすが400馬力! 出だしからグッとスピードが出るのは驚きです」とI-PACEを楽しんでいた。
245cmのスキー板も収納可能
新たに息子と挑むオリンピック
「乗り味やデザイン、インテリアも含めて、今、I-PACEに未来っぽい雰囲気を感じます。ちょうど昨年、家族旅行で行ったカリフォルニアでテスラがたくさん走っていたことを思い出しました。これから日本の自動車会社もこぞってEVを出してくると、日本でもEVが走る風景が当たり前になっていくのでしょう。都心と比べると、長野でのクルマは日常の移動手段ですから、いわゆる『ちょこちょこ乗り』なんです。特に山間部ではガソリンスタンドが減っているという話も聞きますので、そういう乗り方であれば今後はEVという選択肢もありなのではないでしょうか」
この4月に現役時代から所属していた会社を退社し独立した荻原さん。いまだ現役アスリートとして毎朝8kmのランニングをこなし、家や公園で自重を使った筋トレをしているという。
「昨年、国体成年B(マスターズクラス)に出たときには最年長(48歳)だったんですけど、その次に年長なのが34〜35歳でその下が27歳。そのくらいの年齢だと現役選手が多いですからね。そりゃあなかなか勝てない。そんな中で出場すると、みんな驚くというより『健司さんに勝てた!』って喜ぶんですよ(笑)」
現在は自身の息子さんを含めた子供たち15人の練習がメインで、目下オリンピック選手に育成すべく指導中の荻原さん。長野はノーマルヒル、ラージヒルなどオリンピック規格のジャンプ台がいくつもあるため、練習にはかなり適した土地柄ということだ。この日は245cmのスキー板をI-PACEに試しに積んでみたが、リアシートを倒してラゲッジルームからフロントのコンソールボックスに板を通せば、車内積載も可能。後部座席に乗り込みオプションのグラスルーフも堪能していただいた。
金メダルをいくつも獲得した当時のルックスをそのまま維持し、息子さんや子供たちとともに新たな目標に向かって走り出す荻原さん。I-PACEのリアゲートで疾走するジャガーのエンブレムは、そんな萩原さんのスタイルとオーバーラップしているようであった。