9月後半に行われたジャガー・ランドローバーのメディア向け試乗会は、会場のひとつであるヒルトン福岡を出発し、高速道路でサーキットのある熊本県のHSR九州へ移動。ロングツーリングとサーキット走行を体験できるイベントとして、多くのモータージャーナリストやライフスタイルメディアのエディターに参加いただくことになった。今回は「新しい視点」をもって、男たちの美意識、想像力を刺激するクリエイティブマガジン「Pen」編集部の多田潤さんにI-PACEを体験していただき、その印象をレポートさせていただくことにする。
1959年式アバルトオーナーによる
2019年式最新EVの印象とは
「Pen」の中でもクルマの記事を最も多く担当するという多田さんは、自身で1959 フィアット・アバルト 750 レコルトモンツァ・ザガートを所有するというエンスージアストで、最近では古いクルマを楽しむ新感覚の雑誌「V MAGAZINE」を編集長として創刊。サーキット走行やクラシックカーラリー参加経験もあり、カーライフの楽しみを謳歌している。時計、建築などにも造詣が深い。台風が通過し良い天気に恵まれた試乗会当日、さっそくヒルトンから多田さんのドライブに同乗させていただくことにした。
「実はホテルを出てから、今まで一回もブレーキペダルを踏んでいないんです。設定で回生ブレーキを強めに設定しているのですが、減速・停止は回生ブレーキのみ、I-PACEはまさにワンペダルでドライブできてしまいます。アクセルだけの運転は、運転に慣れてる人にはストレスがなく、かなり楽だと思いますね」
雑誌編集という仕事柄、新車の試乗会などクルマに乗る機会が多いという多田さん。EVもリーフやテスラなど、日本で発売されているモデルにはひととおり乗っているということだが、I-PACEを長いことドライブするのはこれがはじめてのこと。クルマは一般道から福岡〜熊本を走る高速道路へと入った。
「高速道路に入ってから、ずっとアダプティブクルーズコントールをONにしています。快適で静か、とてもリラックスできます。設定はすべてステアリングに集約されていてわかりやすい。これはジャガー・ランドローバーで販売されているほかの車種と共通ですね」
ロングドライブでのドライバーの負担を軽減させる、アダブティブクルーズコントロール。作動中はカメラとレーダーが連動し、前方のクルマと走行レーンを監視。混雑した道路状況でもリラックスしてドライビングを楽しむことが可能だ。
Profile:「Pen」編集部 多田 潤
1970年東京都生まれ。日本大学卒業後、出版社へ。モノ系雑誌に関わり、『Pen』の編集者に。20年ほど前からイタリアの小さなスポーツカーに目覚め、アルファロメオやランチア、フィアットの1960年代モデルを所有し、自分でメンテナンスまで手がける。昨年CCCカーライフラボよりクラシックカー専門誌『Vマガジン』を創刊した。
スポーツカーでもありセダンでもある
様々なライフスタイルに似合うI-PACE
「ジャガーというブランドはI-PACEで自動車の概念を変えようとしている感じがします。デザインはもちろんですが、I-PACEはSUVでありながらスポーツカーでもあり、居住空間も広く快適でセダンのようでもある。レイアウトが自由なEVだからこうした複数の要素を同時に体験できるんでしょう。暮らしに根づくクルマとはこういうEVなのかもしれない、と感じました。I-PACEで家族とレストランに行ってもいいですし、週末ひとりで走りを楽しむのもいい。大きな荷物を積んでバカンスに出かけてもいいですよね。今までなら、自分の趣味用にスポーツカーを持って、家族がいるから大きなクルマも別に買わなきゃいけないとか、ライフスタイルのステージに応じてクルマ選びは重要で、選択肢が限られる状況にありました。I-PACEはEVなのでどんなシチュエーションにもライフスタイルにも合ってしまう。まだ高価なクルマなので、特別な方しか購入できないと思いますが、マルチパーパスで、何よりクルマをリデザインしたな、という新鮮な印象を受けました」
「日本人にとって、一番身近なEVといえば日産リーフですよね。登場して10年が経ちますが、リーフは一般の人にたくさん乗ってもらおうと開発されたクルマでした。その間にテスラが出てきて、EVは高級であると新しい提案をした。テスラは、高級で新しい特別なEVという感覚で作られて刺激的ですが、I-PACEは革のステアリングや内装のステッチにいたるまでさすがにジャガーらしい高級感が残っていて、こうして高速道路を走ると心地いいし、走りにもしなやかさを感じますね」
もともとクルマで走ることが好きで、所有するクルマもスポーツ性が高いものが多いという多田さん、I-PACEにも走りの楽しみを見出したようだ。
「スポーツモードにして加速を楽しんだり、回生ブレーキの効き具合を調節したり。I-PACEは高級車とスポーツカーの2面性がありますよね。普通のスポーツカーには負けない加速感で、はじめてEVに乗る方は驚かれるでしょう。交差点でもトルクがあるので、楽に発進でき、運転も楽しいですよね。スピードを出したいときに出せて、止まりたいときに止まれるというのは、心に余裕ができますし、リラックスできて安心につながる。これはEVのいいところだと思います」
クラシックカーを所有しているだけあり、ガソリン車はもちろん好きという多田さんだが、EVにはEVの楽しさがあると、この試乗会で発見したようだ。
「昔、スポーツカーというとあえて音を出し、スリルや危険との隣り合わせというのが、ブランディングにあったと思います。危険性とかエゴイズムのようなものがEVになると確実になくなるけれど、気持ちいい! 今後は地球環境に優しいエシカルな方向性、だけどスピードも出せる! というのが広まるでしょう」
「エンジン音や排気ガス、オイルの匂い。こうした今までのエンジン車やレースにまつわることを大事にするクラシックカーも人類にとっては重要なヘリテージです。I-PACEに乗ると今までの内燃機関の価値観とは違うクリエイティブな楽しみ方が可能なのではないでしょうか? クルマが変わるとユーザーも変わって、その延長でクルマ社会自体も随分変わるのではと、そんな予感すらします。ネガティブに考えると、ガソリン車の楽しみがなくなるということになりますが、ポジティブに考えると自動車の可能性がさらに広がるということです。移動手段としてI-PACEは最先端の乗り物だと思いますね」
サーキットの走りでは
F-TYPE SVRに負けないくらい!?
HSR九州でのサーキット走行。多田さんの助手席にビデオクルーも同乗させていただいたが、そこはヒストリックレースも楽しむ多田さんだけに、かなり本気の走りを見せていただくことに。
「I-PACEはアクティブサウンドデザインによって、結構エンジン音らしい勇ましい音がしますね。多くのバッテリーを積んでいることもあり、サーキットを走らせると比較的重い感じがしますが、それでも同じく試乗させていただいた、ハイパフォーマンスモデルで575馬力以上のパワーがあるF-TYPE SVR COUPEと比較しても、負けないくらい速いという印象を受けました。
大排気量のクルマはドーンと加速して一気に止めて曲がるみたいな走り方が魅力でごまかしもきいたのですが、I-PACEの場合、LAPタイムを詰めるために知能的なスポーツのような繊細さが必要だと思いました」
I-PACEはサーキットで走らせても面白く、普段の走りも面白い! と語る多田さん。最後に「EVはこれからどんどん進化すると思いますが、まずは最新型のEVともいえるI-PACEを皆さんに試乗してみていただきたい」とも語っていただいた。知的な大人の最新アイテムとしてのI-PACEは、60年前のクルマを日常で楽しんでいる生粋のクラシックカー好き雑誌編集者をも虜にしてしまったようだ。