全世界で発売されているクルマを世界中の著名ジャーナリストが評価し、その年のアワードを決定するワールド・カー・アワード。I-PACEは2019年のワールド・カー・アワードで、最高の栄誉となるワールド・カー・オブ・ザ・イヤー賞、そしてワールド・カー・デザイン賞、ワールド・グリーン・カー賞の3部門を同時に受賞するという史上初の快挙をなしとげた。ここでは実際にワールド・カー・アワードの選考委員で、I-PACEに高い評価をつけたモータージャーナリストの方々にご登場いただき、I-PACEの魅力と評価ポイントを語っていただいた。
第二弾は松田秀士氏。
レーシングドライバー
モータージャーナリスト
日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
ワールド・カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
Profile:松田秀士
1954年高知県生まれ、大阪育ち。浄土真宗本願寺派の僧侶でもある。ビートたけしの運転手を経て28歳でプロレーサーを目指し、シビックレースを皮切りにF3、F3000、グループCやグループAなど、ツーリングカーからフォーミュラカーまであらゆるカテゴリーで活躍。1994年にはINDY500に参戦し、1996年には当時日本人最高位となる8位でフィニッシュ。スーパーGTでは100戦以上出場したグレーテッドドライバーで、ルマンを含む世界4大24時間レース全てに出場経験を持つ。メカニズムにも強く、レースカーのセットアップや一般車の解析などを得意とする。
私はワールド・カー・アワードの審査員を12年ほどやらせていただいておりますが、今年一番印象に残ったクルマはI-PACEでした。同アワード15年間の歴史においてワールド・カー・オプ・ザ・イヤー、ワールド・カー・デザイン、ワールド・グリーン・カーの3冠を受賞したクルマはこれまでにありせん。世界中のジャーナリストが一様に評価した結果というわけですが、私の場合はI-PACEの“走りの潜在能力が高い”ということが一番の評価ポイントでした。
I-PACEに初めて試乗したのは、2018年11月に行われたワールド・カー・アワードの試乗会で、場所はLAのパサデナでした。この試乗会はLAモーターショーに合わせて世界各国のジャーナリストが4〜50名ほど集まり、4日くらいかけて開催されました。集められたクルマはヒュンダイのEVやインフィニティのSUVなど、日本では販売されていないクルマもあるのですが、じっくりと自由に試乗できることが魅力となっています。試乗コースはパサデナの市街地を抜けて高速道路を20kmくらい走り、日本でいうところの箱根のようなワインディングロードに向かいます。ここはLAの中心部からも近いため、土日ともなると富裕層がドライブするスーパーカーのメッカとなり、自動車ジャーナリストにとっては定番の走り慣れた峠道です。
日本ではワインディングロードというと低中速コーナーがメインですが、アメリカでは中高速コーナーが多く、コーナーが回り込んでいて奥が深いのが特徴。道幅もそれほど広くもなく、山側はワイルドな山肌で谷側は崖、というスリリングな環境です。その中で試乗したI-PACEの印象はというと、まずは「余裕のあるEVだな」ということ。ゼロ回転から最大トルクが出るモーターの特性上、スタートが気持ちよく、きわめて静かかつ前後のモーターコントロールが非常にしっかりしている。またエアサス(オプション)の乗り心地が非常によい、というのが第一印象でした。
じつはこの峠を走っているときに、ひとつエピソードがありました。試乗車の中にBMWのM2コンペティションがあり、ほかの国のジャーナリストが乗って、うしろから追いかけてきたんです。試乗のときは、前のクルマが詰まってしまうとインプレッションがとれないので、わざと前のクルマとの間合いを空けたりするのですが、うしろからあおられるので、こちらもペースを上げてったんです。その方も必死についてくるので「結構乗れる方だな」と思い、アクセルを全開にして3つか4つコーナーを抜けるとそのクルマはバックミラーの視界から消えていました。重量のあるEVしかもSUVが、サーキット走行も楽しめる軽量ハイパワーなハイパフォーマンスマシンをちぎってしまったんです。I-PACEが低重心ということも理由のひとつだと思いますが、ターンイン速度がとても速く、車重のわりに非常にコーナリングが速いのです。具体的には、まだコーナリングしてステアリングを切っているところから「グワッ」とアクセルを踏み、そこからよりリアを駆動させるとアンダーステアを出さずに曲がっていくため、そこからのストレートがとても伸びるのです。加速はM2コンペティションどころではありません。早くアクセルを踏んでいるので立ち上がりのスピードが速く、コーナリングのクリッピングポイントくらいからアクセルを全開にしても、ピタっとグリップします。若干リアは滑りますが、アスファルト路面での前後バランスに感動したというか「こんなにアクセルが早く踏めるんだ!」という驚きがありました。
またI-PACEはEVといっても、ジャガーの長い歴史を感じさせる乗り味になっていると思います。私は昔でいうジャガー・Sタイプの頃のサスペンション・フィーリングが大好きでした。ジャガーといえばキレイに動く足というか、伸び側のストロークをきちんと出しロールさせながら曲がるというコーナリングを連想させます。タイヤの荷重移動をうまくコントロールしていて、しかも速すぎない絶妙な感じこそがジャガーなのです。
昨今のクルマはサスペンションを固めることで荷重移動を速くしているため、コーナーではタイヤに対する面圧が一気に上がり負担がかかります。今はタイヤの性能がよくなってきているので、その負担をタイヤに頼り、基本的には足が固いほうが高速域で安定するため、ドイツ車などはそういう方向で設計されているといえます。
しかし、サスペンションのストロークをきちんと出しているクルマというのは、タイヤの負担をサスペンションの技でコントロールできます。柔らかく、きちんとストロークするサスペンションは、私にとってはドライブする楽しみでもあります。I-PACEの奥深いハンドリングや四駆の前後コントロール配分から察するに、この乗り味の作り込みは、技術者と開発ドライバーが相当キャッチボールしながら開発したのではと思います。そのため、I-PACEのワンメイクレース「eTROPHY」の開催についても、なるほどそうだよなと納得できました。走りの潜在能力が高いのでベースカーの素材として魅力的で、峠で攻めてもブレーキがへたりませんでしたし、バッテリーセーブも起きなかったのでバッテリーの冷却性にも優れているのだろうと感じました。
さて、私は新車の試乗レポートをよく書くことがあるのですが、そのときに「レスポンスがいい」と表現することが多々あります。ただ、これまでそれは内燃機関のレスポンスの話であって、それがEVとなると全然違うと考えています。ガソリン車でレスポンスのいいクルマといっても、EVと比べるとタイムラグがあっていかにファジーであるかがよくわかるため、 I-PACEのダイレクト感をみなさんにも是非体験していただきたいと思います。
内燃機関のクルマを動かすにはどうしても石油に頼らないといけませんが、EVは当然ながら電気で走らせることができます。電気はいろいろな方法で作ることができる点が大きな魅力である反面、CO2削減や地球温暖化の議論もあり「どうやって電気を作るか」ということが大きな課題でもあります。I-PACEを選択するということは、最先端のEVの進化を体験できる喜びとともに、人類が考えるべきこれからの発電システムや環境問題にも触れるきっかけにもなるのではないでしょうか。
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